yukarashi’s diary

おもに映画や写真について書いています。ドキュメンタリーが好きです。

『オマールの壁』ハニ・アブ・アサド監督

予想していたよりもストーリーが複雑で、かといって小難しい話ではなくエンタメ要素もあり、多くの人に届くような強度のある映画だった。


占領状態が続くパレスチナの青年・オマールが主人公。自分の身を守ることと仲間を裏切ることの狭間にある彼の行動は、観客としてどちらが良いのかとも判断できず、だからすっかり感情移入して主人公の心情を応援することもできなくて、観ているこちらの気持ちまで揺らいで翻弄されてずっとハラハラしながら観ていた。友人や家族、大事な人のことを信じることは、平穏な暮らしにおいてこそ成り立っていると思わざるをえないシーンがたくさんあって、何とも言えない気持ちになる。自由に発言・行動できないどころか、普通に暮らそうと思っても命の危険にさらされている生活の中で、どれだけ人の心が蝕まれていくのかということを嫌でも考えさせられた……というか映画観ているあいだ私はずっとそればかり考えていた。

 

そして映画のラストシーンもやはり、「で、結局この問題の出口っていったいどこにあるの?」という問いをバンッと突き付けるような終わり方。パレスチナイスラエルの問題を扱った映画なのだが、本作は宗教とかそういったものにことさら重点を置いた描き方ではないためか、自由を制限された状況下にいる人々のドラマとして、多くの人の心に響く作品だと思う。

アップリンクの『webDICE』の特集記事をはじめ、監督インタビューやレビューもたくさんあるので、観終えてから読むとより一層理解しやすくなるし、様々なテーマで読み解けるからすごく興味深い。

映画『オマールの壁』公式サイト