「アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること」ネイサン・イングランダー著
海外文学にあまり詳しくないので、書評などで気になる本を見つけても、実際に読み進めてみると案外とっつきにくくて読み切れなかった…というパターンがすごく多い。しかし最近「新潮クレスト・ブックス」かつ「フランク・オコナー国際短篇賞」という括りでチョイスすれば自分好みの作品に出会えそうだと気付いた。 (ミランダ・ジュライとジュンパ・ラヒリはわりと好きなので)
と思いつつ今回手に取ったのが、「アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること」(ネイサン・イングランダー著)。作者はユダヤ教正統派コミュニティに生まれ、敬虔なユダヤ教徒として育ち、のちに棄教。ユダヤ人、ユダヤ教について詳しく知ろうとしたら、概要的なことを書いてあるわかりやすい本はいくらでもあると思うが、この小説は一風変わっていて、とても不思議な作品に出会った気分。
ユダヤ人のコミュニティにおける人間関係、そこに集う人間同士の力関係を描いている、というのが私が感じた印象。登場人物のキャラクター描写があまりなされないのが要因なのか、ユダヤ人を描きながらも寓話的な雰囲気があるので、どこのコミュニティ内にも起こりうる狂気をじっとりと見せられているような怖さがある。そして、そのコミュニティ内のおかしな状況が、別にユダヤ人だからそうなっているというわけではなくて、自分が普段属するコミュニティでも起こりうる事態だよね、これってさ…と自身に跳ね返ってくるというか。
この短編集の収録作に通底するモチーフのひとつは、「隠れ部屋」や「覗き部屋」「認知症患者たちが集団生活するキャンプ」といった閉鎖的な空間。こういうモチーフって映画とかの視覚表現ではわりと描きやすいと思うのだが、小説でそれをやっているからこの本は不思議な感じがするのかな…と、今この文を書きながら改めて思ったり…。私としては、本書の良さを十分に伝え切れないのだけれど、ちょっと変わったもの触れたい人にはぜひ読んでほしい。
アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること (新潮クレスト・ブックス)
- 作者: ネイサンイングランダー,Nathan Englander,小竹由美子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/03
- メディア: 単行本
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ペンブックス19 ユダヤとは何か。聖地エルサレムへ (Pen BOOKS)
- 作者: 市川裕,ペン編集部
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