yukarashi’s diary

おもに映画や写真について書いています。ドキュメンタリーが好きです。

『夜、僕らは輪になって歩く』ダニエル・アラルコン著

 最近気になる作家、ダニエル・アラルコンの小説『夜、僕らは輪になって歩く』(新潮クレスト・ブックス)を読んだ。ペルーに生まれて3歳で渡米し、サンフランシスコ在住の作家が書く本作は、内戦終結後に出所した劇作家を迎えて十数年ぶりに再結成された小劇団の公演旅行を主軸に物語が展開する。

 

夜、僕らは輪になって歩く (新潮クレスト・ブックス)

夜、僕らは輪になって歩く (新潮クレスト・ブックス)

 

  物語の舞台は、作家の出身地・ペルー、あるいは中米のどこかの国を想起させながらも、明確な固有名詞は出てこない架空の国である。劇作家のヘンリーと、若い俳優・ネルソンが主要な登場人物で、そこに彼らの友人や家族、恋人のエピソードが絡んでくる。 

 読み終えての感想は、文章の簡潔さゆえなのか、魅力的な人物描写がなされながらも、どの登場人物にもどっぷりと感情移入させない冷静な文体が印象的だということ。   

ダニエル・アラルコンの小説を読むのは、本作が初めてだが、訳者あとがきを見るとなかなか面白いことをやっている人らしい。

「―前作においてすでに、アラルコンの硬質でジャーナリスト的な文体は確立されていた。―(中略)―フィクションの創作と並行して、優れたノンフィクションの作品をいくつも発表しており、現在はニューヨークのコロンビア大学大学院でジャーナリズム分野の教鞭をとっている。」

ということらしいのだが、そのノンフィクション作品っていうのも読んでみたいなと思った。本作には、物語の途中から「僕」という謎の語り手が登場し、すぐにはその語り手の正体が明かされないのだが、この点において、内戦で(あるいは内戦でなくても)亡くなっていった者たちのことを誰が語るのか、本人ではない語り手が語ることは果たして真実なのか…ということも本作のテーマのひとつのように見える。実際、本作のラストで(詳細なあらすじは割愛するが)、「-外にいて僕の物語を語る資格があると信じ込んだ人間に対して、僕は何をすると思う?-」という台詞があるのだけど、この台詞にはこの物語のこれまでの語り手への信頼をひっくり返すような衝撃があった。

 

  余談だが、“内戦を背景に小劇団が公演旅行に出発する”というあらすじは、テオ・アンゲロプロスの映画『旅芸人の記録』を思い出すわけで、こっちも観てみたのだがやはりテオ・アンゲロプロスの映画は長いけど好きだ。ダニエル・アラルコンの小説とも、“反復性”という意味で描き方に共通性を感じる。 

旅芸人の記録 [DVD]

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 ラテンアメリカの作品を読むと、たいていしばらくはラテンアメリカづいた気分が続くのだが、パトリシオ・グスマンの映画『チリの闘い』も、今からすごく気になっている。

チリの闘い公式サイト