yukarashi’s diary

おもに映画や写真について書いています。ドキュメンタリーが好きです。

『推手<すいしゅ>』(アン・リー監督)

 これまであまり観たことがなかったアン・リー監督作。2月公開予定の『ビリー・リンの永遠の一日』(英題:Billy Lynn's Long Halftime Walk)が良さそうなので、アン・リーの長編第1作目の『推手<すいしゅ>(1991)を観てみたけど、しっかり普通に面白かった。

 『ビリー・リンの永遠の一日』はラスト12分間のシーンで、映画史上初となる1秒間に120フレームを収める最新映像技術が使われているそうなのだが、それを映画館で観て他のシーンとの技術的な違いみたいなものが見てとれるのかどうか……そのあたりがとても気になる。ちなみに私は映画の技術面に詳しくないので、どういう感じなのか想像もつかないけれど、1秒間に120フレームってことは、視覚的にすごく鮮明に感じられるのかな?と予想するぐらい。そういえば 『ゼロ・グラビティ』公開時は、わざわざIMAXの映画館に行ってみたけど、そもそもIMAX非対応の劇場で同じ作品を観ていないから、はっきりとした違いはよく分からなかった……。でも、『ビリー・リンの永遠の一日』のラストシーンは、「イラク戦争の英雄となった青年がアメリカン・フットボールのハーフタイムイベントに迎えられるシーン」ってことで確実に象徴的で重要なシーンだろうから、題材に合わせて新しい技術を導入したという試みを含めて、面白そうだなと。

 

 話を戻して、『推手<すいしゅ>(1991)は、ニューヨークで息子夫婦と同居を始めた太極拳の師・朱老人を主人公にしたドラマ。英語しか喋れない息子の妻と、英語を喋れない朱さんは、ふたりきりで家にいる時間も意思の疎通ができず、お互いへのいら立ちが募るばかり。そんな折、朱さんが散歩に出かけて迷子になってしまい…。 この映画で、朱老人=異国の地で暮らすことになった年老いた父は、息子の嫁から疎まれてはいるが、実の息子からは尊敬され大事にされる存在として描かれている。単なるお荷物ではなく、朱老人は太極拳の名人であり、それを生業にしてきたプライドもあるところが、それぞれの人物描写を魅力的にしている。可哀そうなおじいちゃんみたいな描かれ方だったら、悲しくて観ていられなくなりそうだが、そうじゃないから面白い。中華料理屋の皿洗いのバイトのシーンとか良いんだよね。

 

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 この映画を観ていて思い出したのは、タイ系アメリカ人作家、ラッタウット・ラープチャルーンサップの小説『観光』。ツイッターで評判を聞いて手に取ってみたのだが、さらさらとした読み心地の良い文章ながらも、さまざまな感情を鋭く掬っていくような小説でとても印象的だった。本書は短編集で、その中の一編「こんなところで死にたくない」という作品は、息子の住むタイで晩年を過ごすことになったアメリカ人のお父さんの話。おじいちゃん扱いされて可哀そうな主人公が、最後に痛快な行動で気持ちを発散させるという流れが最高だった。年老いた父母の話なんて、以前はまったく惹かれなかったけれど最近はそうでもなくなったかも、大人になったからだろうか。『観光』は、この短編以外もとても素晴らしいのでおすすめです! 

観光 (ハヤカワepi文庫)

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