yukarashi’s diary

おもに映画や写真について書いています。ドキュメンタリーが好きです。

『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』(ジャンフランコ・ロージ監督/2016年)

 前作もそうだったが、「ドキュメンタリーではなくフィクションなのでは?」と感じられる撮り方をする印象が強いジャンフランコ・ロージ監督。その「フィクションなのでは?」と感じる要素が、具体的にどういうことかというと、構図が決まっていて美しい、全編通して映像が美しい(ちゃんと撮影できている箇所とそうでない箇所のムラがない)、といった要素……。つまりは、撮り方がとてもきれいなのだ。 前作『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』の、内容云々はじつはあまり覚えていない。それよりも独特の作風というか、内容よりも形式が前景化している作品だなという印象を持った。
本作 『海は燃えている』は、アフリカや中東からの難民・移民の玄関口となっているイタリア最南端の島・ランペドゥーサ島の日常を捉えたドキュメンタリーである。『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』も、人にフォーカスしたドキュメンタリーというより、「ローマ環状線」という場がまず重要であり、そこに暮らす人たちの映像が繋がれていく、と表現したほうが適当だったように思う。そこには、大げさな盛り上がりなどはなく、何かこう、社会的な問題をテーマにしたドキュメンタリーとは毛色が違っていた。そうした印象が強かったので、難民というタイムリー(という言い方は語弊があるが)で、社会的なモチーフを、ジャンフランコ・ロージ監督がどう見つめるのかという点にとても興味があった。
結論から言うと、何をテーマに選ぼうが、この監督の姿勢は一貫していて、その徹底ぶりを見て、私はジャンフランコ・ロージ監督がさらに好きになった。 例えば、粗雑なボートでやってきた難民の人々が羽織る防寒用のシート。(日本でも非常避難袋なんかに入っている、銀色(あるいは金色)のアルミ箔のようなあのシート)そのシートが暗闇のなかでギラギラと光る様子が、この監督が撮る映像だと、「あーキレイ」と言いたくなる感じがある。いや、そういう風に撮影しているから当たり前なのだけど。
本作は「ランペドゥーサ島」という場所についてのドキュメンタリーであり、そこにいる人々についてのドキュメンタリー。難民を写すパートでは、個々人の境遇については掘り下げられないのだが、難民が置かれている厳しい状況がさらりと映像に捉えられている。この島は「難民の玄関口」という特別な場所でありながら、一方では、それ以前より続く「漁業を生業とするイタリアの小島」の日常生活の場なのである。あまり説明過多な映画ではないが、映っているものが興味深く、楽しみながら見ることができた。この作品の主人公(ドキュメンタリーなので、そういう位置づけではないが)、と言っていいくらいよく登場する地元の男の子の暮らしぶりも面白い。この子が友達と一緒に、木の枝で作ったパチンコで遊ぶシーンや、学校で勉強するシーンなど、インタビューやナレーションがないので全体像が分からない部分も多いのだが、断片的に面白い映像がたくさんある。
 
  戦争や難民など、そのときどきの情勢を扱ったドキュメンタリーって、その時に観るということに大きな意味があったりするものだ。私は昨年、東京の特集上映で『祖国 イラク零年』(アッバース・ファーディル監督/2015年)を観たのだが、とても素晴らしい作品だったのと同時に、もう少し早く観ておけば…と感じたからだ。 そういう意味で、ジャンフランコ・ロージの撮り方は、報道ニュースとは完全に異なる視点であり、だからこそ、これって本当にドキュメンタリー?と感じるのだと思う。『海は燃えている』から、一過性ではなく、そこにある人々の生活を徹底して見つめる静かな気概みたいなものを強く感じた。